
犬の肺水腫との付き合い方
公開日:2023/04/16
最終更新日:2025/06/20
小型犬に最も多い心臓病に僧帽弁閉鎖不全症というものがあります。僧帽弁閉鎖不全症の末期になると肺水腫と呼ばれる呼吸ができなくなる状態に陥る犬が多く、穏やかな最期を迎えられない犬もいます。肺水腫に陥った犬にどのようなことができるのでしょうか。
僧帽弁閉鎖不全症と肺水腫
僧帽弁閉鎖不全症は犬の心臓病の約8割を占める進行性の心疾患です。 全身を巡って酸素を使い果たした血液は肺で再び酸素を受け取って心臓の左心房、左心室から全身に送り出されます。この左心房と左心室を隔てているのが僧帽弁です。 僧帽弁は血液が左心室から左心房に逆流しないようにする働きがありますが、僧帽弁閉鎖不全症はこの弁の構造が変わることで、弁が上手く閉じなくなり血液が逆流してしまう病気です。 血液が左心房・左心室間で逆流することで血液が心臓の中を渋滞してしまいます。僧帽弁閉鎖不全症が進行し、渋滞する血液量が増えていくと、行き場を無くした血液が肺から染み出してしまいます。 染み出した血液によって肺が水浸しになり、陸の上にも関わらず、溺れているような状態になってしまうのが肺水腫です。 肺水腫が起こっている場合、心臓の働きが低下したこと (心不全) が原因であることが多いのですが、心不全以外の原因で肺水腫が起こることもあります。 例として感電、肺炎、重度の炎症、重度の気道閉塞などが挙げられます。肺水腫の症状
肺水腫を発症すると、肺に血液がたまる事で呼吸が苦しくなってしまいます。そのため、呼吸数の増加(特に安静時呼吸数の増加)やチアノーゼ(舌が青紫色になる)、犬座姿勢(少しでも胸を広げて酸素を取り込もうと前肢を大きく広げて座る)などが認められます。また、呼吸した際の空気の通り道である気道にも液体成分が溜まってしまい、痰が絡んだような咳をします。 血液が渋滞し全身に上手く送り出せないため手足の先が冷たく、少し湿ったように感じることもあります。どのような最後を迎えるのか
僧帽弁閉鎖不全症が原因の肺水腫の場合、残念ながら寿命は肺水腫発生後から約1年と言われています。多くの場合は肺水腫の症状が急激に現れる急性期と、状態が少し良くなる慢性期を何度も繰り返しながら少しづつ弱っていくという亡くなり方が多いです。 急性期には酸素室にいれて高濃度の酸素を投与して呼吸状態を安定させます。それでも自身で呼吸が上手く出来ないときは、呼吸を補助するために挿管し、人工呼吸器による管理が必要になる場合があります。しかし、心臓や呼吸器が弱っている状態で麻酔をかけなくてはならないため、助からないケースも多いです。また、体に溜まった水を尿として排出するために、利尿剤や心臓を動かす強心薬等を投与しながら状態の安定化を図ります。少しでも生活の質を上げるために
お家でできるケアは限られていますが、現在米国獣医内科学会のガイドラインでは自宅での以下の取り組みが推奨されています。- 安静時呼吸数のモニタリング
- 投薬を適切なタイミング、用量、用法で必ず行うこと(投薬コンプライアンスの遵守)
- 食欲の有無のチェック、体重管理
- 食事管理
安静時呼吸数のモニタリング
僧帽弁閉鎖不全症などの心臓病が原因の肺水腫は、1度発症すると繰り返し起こることが多いため、できるだけ早く異常に気づいてあげることが救命率の向上に繋がります。 犬の呼吸の異変に気づくために有効な指標として安静時呼吸数というものがあります。 安静時呼吸数は名前の通り犬がリラックスしている時(座っている、寝そべっている、または睡眠時)の呼吸数のことです。心臓病が原因の肺水腫の場合、この安静時呼吸数が増加することが複数の研究でわかっています。 この安静時呼吸数が1分間に40回を超えた時は肺水腫に陥っている可能性が非常に高いため、すぐに動物病院を受診しましょう。安静時呼吸数を毎日記録しましょう